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HIGH POWERED INFRARED LED DEVICE
高出力赤外LEDデバイス
高出力な赤外LEDを実現し、
自動運転時代幕開けの立役者に!

自動運転車の実現に向けた動きが世界各国で盛り上がるなか、周辺監視機能やドライバーをモニタリングする機能などが話題となっている。スタンレーはその鍵となる技術のひとつ、高出力赤外LEDデバイスの開発に成功。これまでにないハイパワーでタフな〝眼〟が、加速する自動運転時代幕開けの立役者となる日は近い。開発・製品化プロジェクトのメンバーにインタビューし、挑戦の軌跡を追った。

STORY 01
プロジェクトの背景

自動運転時代の新たなニーズを捉える

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自動運転車の実現のためには、さまざまなセンシング技術を複合的に組み合わせる必要がある。たとえば遠くの前方車や歩行者、・広範囲に存在する障害物などの検知には、雨や逆光などの影響をあまり受けずに広角度範囲で電波の反射波を測定できるミリ波レーダー、白線検知や駐車支援には近距離かつピンポイントをセンシングできる赤外線レーザーなどのセンサが適する。また、車内のドライバーの状態を検知する機能にも、同様に、複数のカメラやセンサーが必要となる。このようなADAS(先進運転支援システム)を支える各種デバイスが注目を集めるなか、自動車業界では数年前から出力の高い赤外LEDの需要が高まっていたという。こうした時流を受け、スタンレーの商品企画部が起案したのが「高出力赤外LEDデバイス」開発・製品化プロジェクトだった。

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技術的難題へ挑むプロジェクト

スタンレーはこれまで、車載用から民生用まで幅広いLEDデバイス製品を世に送り出すなかで、可視光だけでなく、目に見えない赤外線・紫外線のLEDデバイスも手掛けてきた。だが、設計、国内営業、海外セールスエンジニア、商品企画など、さまざまな領域の社員による知見を集めていくうちに、「狙った場所を高出力で照らせるかつ使用環境での負荷に耐え得る赤外LEDデバイス」の実現は既存の技術では難易度が高いという結論に行きついた。課題は大きく2つあった。1つ目は高出力で配光できるレンズを安定して生産すること、2つ目は高出力化に伴って発生する熱を除くことである。特に困難だったのは、LEDデバイスから発生する熱のコントロールだ。
「いかに効率的に放熱できるかが勝負どころでした」ハードルは高い反面、クリアすれば「高出力赤外LEDデバイス」は自動運転時代幕開けにおける立役者となれる。そんな確信の下、要素技術と設計、生産技術など、複数部門が連携しての挑戦が幕を開けた。

STORY 02
これまでにない
狭配光レンズをつくる

新しい素材、新しい工法を模索

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まず要素技術開発部門に求められたのは樹脂の材質、製造工法について、その解を探ることだった。「広い範囲を検知できる製品のみならず、ドライバーの状態検知の用途として、目の虹彩を認証できるようなピンポイントを照らす製品など、いくつか形状のバリエーションを揃えなければいけませんでした」樹脂レンズの製造方法としては金型が一般的だが、異なる形状の製品を量産できる体制を整えるとなると不向きだ。水飴のようにそもそも形のない樹脂を、高価な金型を使うことなく、まったく同一形状のレンズとして量産するためにはどうすべきか。材料である樹脂の特性や樹脂の吐き出し方法など。未知の領域の知見を得るためには、社外へ出て、専門家と樹脂の流動についての議論を重ね、さまざまな機械装置でデモを繰り返す必要があった。
時には想定とかけ離れた結果が出ることもあったが、材料メーカーや装置メーカーと議論を重ねることで、徐々に安定生産できる工法へと的を絞っていった。

STORY 03
「放熱性」という壁を
乗り越える

妥協なきトライ&エラー

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次に担当者たちの前に立ちはだかったのは「放熱性」という大きな壁だった。従来と桁違いの出力を実現するには当然、段違いの発熱量が伴う。これを逃がすには、セラミックスや金属など従来の熱伝導性材料を用いるだけでは不十分だった。また材料だけでなく、放熱性に影響する材料間の密着性や高熱伝導性材間の連結性なども考慮しなければならない。
この難題を乗り越えるため、担当者たちは高出力レンズの安定生産と同様にひたすらトライ&エラーを繰り返した。 「LED素子の材料特性や基板との接合方法などをいくつも検討し、最適化することで、高熱などの過酷な環境下でも十分な放熱性を実現することができました」
一方、ほぼ同時並行で、高出力赤外LEDを民生用途へも生かしていこうという試みが進展していた。車載用だけでなくセキュリティー用品や家庭用ゲーム機のツールなど、幅広い潜在的なニーズがあったためだ。あらゆる面で高水準の品質が求められる車載用デバイスを民生用途へ転用するにあたっては、基本的には仕様を緩和すればコストダウンを図ることが可能だ。しかし、ここでもやはり放熱性が課題に。
「基板を安価なものに取り換えてコストダウンを図りましたが、熱伝導率が段違いに悪く、発する熱をうまく逃がすことができませんでした」
とにかくさまざまな材質や構造を試しては評価・検証を繰り返し、最終的には民生製品に要求される放熱性とコストのバランスを達成することができた。

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STORY 04
挑戦者たちを支えたもの

信頼関係で結ばれた
若き中堅社員と上司

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トライ&エラーを重ねて新たな技術を確立できたからといって、それでプロジェクトが要素技術や設計の手から離れるわけではない。製品として量産するには、生産や品質管理を含めさまざまな視点のメンバーから合意を得られなければならないのだ。たとえば赤外LEDデバイスはその審査に2度も落ちたという。「これこそ最適解」、そう開発側が確信しても、生産側からすれば工数や工程や仕様にまだまだ改善の余地がある。
担当を任されていた山下と池田はこの当時を次のように振り返る。「さすがに2度目の審査を通らなかった時は落ち込みました。しかしながら、この高出力赤外LEDデバイスは製品化すれば確実に売れると確信していたので、再び奮起することができました」(山下)。「モノづくりのおもしろさは、努力した成果が具体的な形になること。そこへ至るまでの試行錯誤や改良の道は楽しい」(池田)。そんな若き中堅社員たちを、上司の加納がしっかりと支えた。
「彼らをはじめとして、このプロジェクトには入社10年目前後の伸び盛りのメンバーが多数加わっていました。設計や試作のノウハウを蓄積し、いよいよこれから自分たちの製品を手掛けていく大事な時期。全体を統括する立場として、彼らを鼓舞し、ワクワクさせるのが私の役割でした。毎日のように新しい課題を抱える彼らの話を聞き、前向きに議論し合い、具体的なアドバイスを伝えてきました」
メンバーたちも当然、加納に全幅の信頼を置いている。山下は「担当業務に行き詰まって不満がたまると、就業時間中はもちろんのこと、お酒の席でも気軽にいろいろな相談にのってもらっていた」という。また池田によれば「自分自身は設計一筋でこの10年やってきた一方、加納さんは設計だけでなく営業や企画部門を経験し、海外勤務も長かった。だから広い視野を持って常にお客様目線でのアドバイスをくれる」と。
技術者はともすると、自分が担当する作業や工程のみに集中してしまいがちだ。そうならないよう、常に顧客目線、または後工程の工場目線に立ち、その観点から自分の仕事や製品を見つめるように彼らに伝えてきたのだ。

STORY 05
終わりのない挑戦、
そして未来へ

世界最高レベルの製品が完成

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数々の苦労を経て「高出力赤外LEDデバイス」が完成、指向特性(光の広がり方)の異なる2種類の量産が始まった。それぞれ車載用途のほか、リモートカメラや生体認証システムといった民生用途、監視カメラや防災カメラ、赤外投光器といったインフラ用途など、今後、さまざまな場面での活躍が期待されている。
これまでの低出力の赤外LEDデバイスでも、使用個数を多くすることでこうした用途に対応させることは可能だったが、デバイスを置く領域が広がること・コストがかさむことが難点だった。が、この「高出力赤外LEDデバイス」ならその使用個数を大幅に減らせるため各メーカーは機器の小型化が実現できるはずだ。「配光設計と熱設計によって、投入電力当たりの出力は世界最高レベルです。それによって、顧客側での設計の幅が広がり、世の中の自動運転の拡充に貢献できればと考えています」と加納は胸を張る。
だが今後は数多くの顧客から新たなニーズがあがり、さらなる改良に向けた研究開発・製品化が進んでいく。実際、山下によれば「すでに顧客を交えながら、商品企画部門とともに次世代の製品の話も進めているところ」だという。終わりではなく、むしろ始まりを迎えたこの製品は、これからの私たちの生活に大きく貢献していくだろう。