プロジェクト PROJECT

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PROJECT01
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ADB
ハイビームの自動制御で
ドライバーに安全な視界を提供し、
交通事故ゼロの社会に貢献
ハイビームの配光をピンポイントで
自動制御するADB(配光可変ヘッドランプ)

2012年にスタンレー電気が開発したADB(Adaptive Driving Beam)は、対向車や歩行者を認識し、そこに光が当たらないように自動制御する画期的なヘッドランプ。なぜこのランプが生まれたのか、今後どのように進化していくのか、3人の開発者に話を聞いた。

小西

(光学設計担当)

樹下

(光学ユニットの設計、評価担当)

山本

(制御回路担当、ハードウェア担当)

背景

ハイビームによる
“目の眩み”をなくしたい

通常、車のヘッドランプは、100m以上を照射できるハイビームと、40m程度に留まるロービームの2つを備えている。夜間走行する際は、安全性の観点から遠くを照らすハイビームが推奨されているが、光が強いゆえ危険性を伴う場面もある。例えば自身の車の発する光が前方車のバックミラーやサイドミラーに反射して目が眩んでしまうことや、対向車のドライバーの顔に光が当たって目が眩んでしまうことなどである。
そこで、前方走行車や対向車、歩行者がいる場合にはロービームに切り替えることになるわけだが、当然、視界が悪くなくなるため、今度は自身が事故を起こす恐れが増す。
このような、ヘッドランプの“ハイ/ロー”切り替えのジレンマを解消したのが、2012年に完成したADB(Adaptive Driving Beam、配光可変ヘッドランプ)である。光源から配光、構造、システムまで幅広い技術を持つスタンレー電気ならではの製品であり、日本で初めて“LEDアレイ式”を用いたADBを量産車に搭載した実績がある。

課題

20セグメントのLEDを制御し、
最適な光のバランスを実現

光学設計担当として当初から開発に携わっている小西は、次のように説明する。
「ADBはハイビーム走行時に車載カメラが車や人を検知して、それらに光が当たらないように自動的に制御するシステムです。ロービームに切り替える必要がなく、常に遠くまで照射できるので、夜間の視認性が飛躍的に増します」
光源には複数の極小LEDを並べる“LEDアレイ式”を採用。照射範囲を細かく分割したセグメント単位でLEDのオン/オフをコントロールすることにより、狙った部分の遮光を可能にしている。
「2012年の初期型は、左、中左、中右、右と遮光位置を4セグメントに分けているだけでしたが、その後、12セグメントになり、現在は20セグメントまで分かれています。よりピンポイントに狙った部分を遮光できるようになりました」
そしてADBは、車載カメラをはじめとしたさまざまな部品との制御連携のうえで成り立っている。カメラ本体以外はすべて自社開発であり、光源、配光、構造、システムなど、さまざまな部署の協力によりADBは完成した。
「たとえば、光源の開発者はLEDそのものの明るさにこだわりがちですが、配光の担当者は全体のバランスを重視します。部署ごとに専門用語が異なっていたり、それぞれポリシーがあったりと、開発にあたっては意見が衝突することもありましたが、共同研究や打ち合わせを重ねるごとにお互いの立場を理解し、スムーズに仕事を進められるようになっていきました」

印象的なエピソード

取引先の要求スペックを満たすために
評価ツールを活用

しかし、「そうはいっても開発は楽ではなかった」というのは、光学ユニットの設計を担当した樹下だ。
「まず法規の内容を理解するのが大変でした。通常のヘッドランプの規格に加えてADB専用の規格も定められていますし、四輪用と二輪用でも規格が異なるなど、項目も多く難解です」
しかも、法規をクリアした先には次なる課題として、自動車メーカーからの要求が待ち構える。より良い製品をユーザーへ届けるという目的のためには、法令よりも厳しい基準を満たさなければならない。そのため、多くの機能において自動車メーカーからの要求を満たす必要がある。
「取引先の求めるスペックはメーカーごとでも、その車種の販売地域でも変わってきます。たとえば、日本の高速道路の制限速度は時速100㎞ですが、ドイツのアウトバーンは速度制限がない区間もあります。欧州向けの車に搭載されるADBには、国内向けよりもハイスピード走行を想定した性能や配光が求められました」
このように、厳しい条件が突きつけられるなかで、試験結果の評価作業も樹下が担当した。ひと口に評価といっても、製品の特徴や外部の環境などによって試験の結果は大きく異なってくる。例えば、車体左側に搭載するランプと右側に搭載するランプでの差異、試験を行う暗室と実車での走行時での差異、直線・右カーブ・左カーブ・上り坂・下り坂などを走行する場合での差異などが挙げられる。あらゆる条件を想定しなければ、車の安全性を守る自動車ランプとしての機能は満たせない。そのためにシミュレーションを繰り返し、膨大なデータを組みあわせて解析する必要があるのだ。
「効率よく解析するために表計算ソフトなどを活用した評価ツールを使いました。それでも、ひたすらデータと格闘する毎日……。大変でしたが、そのおかげですべての要求を満たす評価が出たときの感動もひとしおでした」(樹下)

使命感と今後の展望

ハードとソフトの融合に挑戦

そして、ADBの要の技術となっているのがシステム制御である。制御回路の設計と構築を担当した山本は「ゼロから開発しなければならず、大変だったがやりがいも大きかった」と振り返る。
「従来のヘッドランプは手動でハイ/ローを切り替えるため、そもそもシステム制御は必要ありませんでした。しかし、ADBは車載カメラでセンシングした情報をランプに伝えて配光を電子制御するためのソフトウェアの開発が新たに必要になったのです」
自動車ランプメーカーはランプシステムメーカーとしての変革を遂げることになった。ハードとソフトのそれぞれのプロが協力して、ランプを開発する時代に突入したといってもよい。
「現在はさらにセグメントを細分化する研究も進めています。セグメントを細かくすることができれば画像を投影することが可能になります。たとえばカーナビと連動して路面に進行方向の矢印を表示することもできるかもしれないのです。現行の法規を超えた領域で、さらに利便性、安全性を追求したランプの開発を進めています」
車両システムの複雑化、IoT化などにより、これから自動車ランプの開発難度はさらに上がっていくと予想される。特に自動運転技術が実用化されれば、人間の目ではなく、〝自動車に搭載したカメラに見せるため〟に、ランプが灯されるようになるかもしれない。そうした時代に備えてスタンレー電気は、次世代のADBの開発にも力を入れていく。

ユーザー目線でさらにADBを進化させていく

最後に今後の目標とランプにかける思いについて3人に聞いてみた。
「当面の目標はADBを普及させることです。多くの車に搭載してもらえるように、製造価格を下げる努力もしていきたいです。現状、ADBの普及率は10%台ですが、自分が運転していてADB搭載車が近づいてくると配光に明確な違いがあるためすぐに気づきます。ランプシステムメーカーとして、夜の事故をゼロにするために研究開発を続けていきます」(小西)

「どんどん加速している車の開発スピードに、しっかりとついていきたいです。また、運転に苦手意識ある人ほど、高機能なランプを求めていると思います。私自身、運転があまり得意ではないので、自動でハイ/ローを切り替えてくれるADBは、運転だけに集中できるので助かります。今後もユーザー目線を大切に、大好きなランプの開発に携わっていきます」(樹下)

「自動車の高機能化が進むなかで、システム制御の役割は重要性を増しています。たとえば、ADBでは遮光部分が急に暗くならないように、なめらかに照明が消えるように制御しています。車両の各機能と連動して動作するなど、ランプ単体ではなく、車全体として乗りやすいもの、安全なものを提供することを考えていきたいですね」(山本)

夜間走行の安全性を高め、ドライバーの負担を軽減していれるADB。今後、この3人の手によってどう進化していくのか楽しみだ。

学生へのメッセージ

小西 定幸(光学設計担当)

ADBは誕生してから10年にも満たない技術です。まだスタートしたばかりのプロジェクトであり、当社ならではの独創的なアイデアや強みが盛り込まれています。そのほかにも、自分のアイデアをカタチにできるチャンスと環境が当社には多数あるので、大いにチャレンジしてほしいと思います。

樹下 佳百合(光学ユニットの設計、評価担当)

想定どおりのものをつくれたときはもちろんうれしいのですが、想定外のものができたときも、貴重な経験ができたと仕事を楽しんでいます。まさにそれがものづくりの醍醐味、ものづくりが好きな人は、ぜひ来てください。私は毎日、充実しています。

山本 裕大(制御回路担当、ハードウェア担当)

ランプは〝車の顔〟の一部ですから、見た目のかっこよさも大事だと思っています。自分が手掛けたランプを搭載したかっこいい車を街中で目にすると、すごくやりがいを感じます。世の中に貢献できていると実感できる仕事です。