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PROJECT04
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HIGH POWERED INFRARED LED DEVICE
高出力赤外LEDデバイス
高出力な赤外LEDを実現し、
自動運転時代幕開けの立役者に!

自動運転車の実現に向けた動きが世界各国で盛り上がるなか、周辺監視システムやドライバーモニタリングシステムが現実味を増してきた。スタンレーはそのキーテクノロジーのひとつ、高出力赤外LEDデバイスの開発に成功。これまでにないハイパワーでタフな〝眼〟が、自動運転時代幕開けの立役者となる日は近い。開発・製品化プロジェクトのメンバーにインタビューし、「投入電力あたりの最高出力」への挑戦の軌跡を追った。

STORY 01
プロジェクトの背景

自動運転時代の新たなニーズを捉える

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自動運転車の実現のためには、さまざまなセンシング技術を複合的に組み合わせる必要がある。たとえば前方車や歩行者、障害物などを検知するにあたって、広域・遠距離をセンシングするには、雨や逆光などの影響をあまり受けずに広い角度範囲で電波の反射波を測定できる『ミリ波レーダー』が適しているし、白線検知や駐車支援センサーなどの近距離かつピンポイントのセンシングは赤外線レーザーが得意だ。また、車内でドライバーの状態を検知するドライバー・モニタリング・システムにも、同様に複数のカメラやセンサーが必要となる。こうしたADAS(先進運転支援システム)を支える各種デバイスのなかでも、自動車業界では数年前から特に出力の高い赤外LEDの需要が高まっていたという。こうした時流を受け、スタンレーの商品企画部が起案したのが「高出力赤外LEDデバイス」開発・製品化プロジェクトだった。

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技術的難題へ挑むプロジェクト

スタンレーはこれまで、車載用から民生用まで幅広いLEDデバイス製品を世に送り出すなかで、可視光だけでなく、目に見えない赤外線や、最近では紫外線のLEDデバイスも手掛けてきた。設計部門、国内営業、海外セールスエンジニア、商品企画など、さまざまな領域の社員による知見を得ながらプロジェクトを推進していくにあたり、「狙った場所を高出力で照らしかつ車載エクステリア環境の負荷に耐え得る赤外LEDデバイス」の実現は既存の技術では難易度が高いという結論に行きついた。
課題は大きく2つあった。まず、いかに高出力に配光できるレンズを安定生産するか。そして、出力を上げたことによって発生する高い熱をどうするか、大電流を流すためにはどのような熱設計をすればよいのか。
困難だったのは、高出力化に伴い、発生する熱をコントロールすることだった。外気温・湿度などさまざまな変化に対応しなければならなかったのだ。
「いかに効率的に放熱できるかが勝負どころでした」と責任者は振り返る。
ハードルは高かったが、それをクリアすれば「高出力赤外LEDデバイス」は自動運転時代幕開けの立役者となる。そんな確信の下、要素技術開発と設計、生産技術など、複数部門が連携しての挑戦が幕を開けた。

STORY 02
これまでにない
狭配光レンズをつくる

新しい素材、新しい工法を模索

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まず要素技術開発部門に求められたのは「高出力赤外LEDデバイス」実現のためにどのような材質の樹脂で、どのような工法で新たなレンズを製造するか、その解を探ることだった。
「これまで手掛けてきた可視光LEDデバイス以上にレンズ曲面のカーブをきつくして集光機能を高めるため、無駄な部分をそぎ落とす必要がありました。また、当初から自動運転で広がりを見せているドライバーモニタリングシステム用途も見越していたので、広角度だけではなく、虹彩認証のようなピンポイントを照らす狭角に対応する製品など、いくつかの形状バリエーションを揃えなければいけませんでした」
そう話すのは、要素技術の主担当に任命された担当者だ。樹脂レンズの製造といえば、金型による成型が一般的だが、複数の異なる形状の製品を量産できる体制を整えるとなると不向きだ。そこで、それ以外の新たな成形方法を探ったという。高価な金型を使うことなく、水飴のようにそもそも形のない樹脂をまったく同一形状のレンズとして量産する。そのためには材料の樹脂にどんな特性があればよいのか。また、液状の樹脂を吐出する方法はどうすればよいのか。未知の領域の知見を得るためには、社外へ出て、専門家と樹脂の流動についての議論を重ね、さまざまな機械装置でデモを繰り返す必要があった。
時には想定とかけ離れた結果が出ることもあったが、材料メーカーや装置メーカーと議論を重ねながら、徐々に安定生産できる工法へと的を絞っていった。

STORY 03
「放熱性」という壁を
乗り越える

妥協なきトライ&エラー

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次に担当者たちの前に立ちはだかったのは「放熱性」という大きな壁だった。従来より桁違いの出力を出すためには当然、発せられる熱も段違いに高くなる。これを逃がすには、セラミックスや金属など従来の熱伝導性材料を用いるだけでは不十分なのだ。また材料だけでなく、放熱性に影響する材料間の密着性や高熱伝導性材間の連結性なども考慮しなければならない。
この難題を乗り越えるため、担当者たちは高出力レンズの安定生産と同様にひたすらトライ&エラーを繰り返した。
「いくつものLED素子の材料特性や基板との接合方法などを検討し、最適化することで、エクステリアの過酷な環境であっても十分な放熱性を実現することができました」
一方、ほぼ同時並行で、赤外LEDを民生用途へも生かしていこうという試みが進展していた。高出力の赤外LEDデバイスは、車載用だけでなくセキュリティー用品や家庭用ゲーム機のツールなど、幅広い潜在的なニーズがあったのである。あらゆる面で高水準の品質が求められる車載用デバイスだったが、民生品への転用にあたっては、基本的には仕様を緩和すればコストダウンを図ることが可能だ。しかし、ここでもやはり放熱性が課題に。
「民生品設計においてコストダウンのために基板を安価なものに取り換えたところ、熱伝導率が段違いに悪く、高出力デバイスが発する熱をうまく逃がすことができませんでした」
民生設計担当者は安価かつ高放熱であることを求め続け、とにかくさまざまな材質や構造を試しては評価・検証を繰り返した。最終的には車載製品から、民生製品に要求される放熱性とコストのバランスを達成することができた。

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STORY 04
挑戦者たちを支えたもの

信頼関係で結ばれた
若き中堅社員と上司

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トライ&エラーを重ねて新たな技術を確立できたからといって、それでプロジェクトが要素開発部門や設計部門の手から離れるわけではない。製品として量産体制に移管させるには、生産や品質管理を含めさまざまな視点のメンバーから合意を得られなければならないのだ。山下によれば、車載エクステリア用途の赤外LEDデバイスはその審査に2度も落ちたという。「これこそ最適解」、そう開発側が確信しても、生産側からすれば工数や工程や仕様にまだまだ改善の余地がある。それだけ車載信頼性の要件はハードルが高いのだ。
「さすがに2度目の審査を通らなかった時は落ち込みました。しかしながら、この高出力赤外LEDデバイスは製品化すれば確実に売れると確信していたので、再び奮起することができました」と山下は振り返る。そして、池田も「モノづくりのおもしろさは、努力した成果が具体的な形になること。そこへ至るまでの試行錯誤や改良の道は楽しい」と話す。
そんな若き中堅社員たちを、上司の加納がしっかりと支えた。
「彼らをはじめとして、このプロジェクトには入社10年目前後の伸び盛りのメンバーが多数加わっていました。設計や試作のノウハウを蓄積し、いよいよこれから自分たちの製品を手掛けていく大事な時期。全体を統括する立場として、彼らを鼓舞し、ワクワクさせるのが私の役割でした。毎日のように新しい課題を抱える彼らの話を聞き、前向きに議論し合い、具体的なアドバイスを伝えてきました」
メンバーたちも当然、加納に全幅の信頼を置いている。山下は「担当業務に行き詰まって不満がたまると、就業時間中はもちろんのこと、お酒の席でも気軽にいろいろな相談にのってもらっていた」という。また池田によれば「自分は設計一筋でこの10年やってきたが、加納さんは設計だけでなく営業や企画部門を経験し、海外勤務も長かった。だから広い視野を持って常にお客様目線でのアドバイスをくれる」と。 
技術者はともすると、自分が担当する作業や工程のみに集中してしまいがちだ。そうならないよう、常にお客目線、または後工程の工場目線に立ち、その観点から自分の仕事や製品を見つめるように彼らに伝えてきたのだ。

STORY 05
終わりのない挑戦、
そして未来へ

世界最高レベルの製品が完成

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数々の苦労を経て「高出力赤外LEDデバイス」が完成、指向特性(光の広がり方)の異なる2種類の量産が始まった。それぞれ車載エクステリアやインテリアのほか、リモートカメラや生体認証システムといった民生用途、監視カメラや防災カメラ、赤外投光器といったインフラ用途など、今後、さまざまな場面での活躍が期待されている。
これまでの低出力の赤外LEDデバイスでも、多数使うことでこうした用途をこなすことは可能だったが、その分だけ場所をとってしまうしコストもかさんでしまうのが難点だった。が、この「高出力赤外LEDデバイス」ならその使用個数を大幅に減らすことができる。当然、各メーカーは機器の小型化を図っていくことになるだろう。「配光設計と熱設計によって、投入電力当たりの出力は世界最高レベルです。それによって、お客様側での設計の幅が広がり、世の中の自動運転の拡充に貢献できればと考えています」と加納は胸を張る。
だがもちろん、プロジェクトはまだ終わらない。今後は数多くの顧客からこの製品を元に新たな具体的ニーズがフィードバックされ、そこからまたさらなる改良に向けた研究開発・製品化への試みが動き出していくことになる。その意味ではむしろ、始まったばかりとも言える。勝負はこれからなのだ。実際、山下によれば「すでにお客様を交えながら、商品企画部門とともに次世代の製品の話も進めているところ」だという。
プロジェクトの中核を担ってきた2人に、あらためてデバイス設計の醍醐味と今後の展望を聞いてみた。
「LEDデバイス設計がおもしろいのは、多種多様な業界のお客様に製品を供給できること。自動車はもちろん、家電や民生品、色々な業界の進化を支えられるデバイスを手掛けたいと考えています」(山下)
「製品開発においてできることは無数にあり、そのつど最適な方法で考えを具現化していくことは大変ですが、何よりの楽しみでもあります。日々新しい知識や経験を積み重ね、魅力ある製品を提案できる人材になりたいと思います」(池田)
加納をはじめとする諸先輩の支えもあって、今回のプロジェクトで大きく成長した2人。これからのスタンレーの未来を担っていく人材としての自覚とやる気は十分、今後のより大きな飛躍が期待される。